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葉酸とプロバイオティクスの併用は有効?臨床試験の現状と科学的根拠を解説

妊活や妊娠中に、赤ちゃんの健やかな成長を願って葉酸サプリを摂るのは、もはや常識となりつつあります。そんな中、「プロバイオティクスも一緒に摂ると良いらしい」という情報をSNSやウェブサイトで見かけ、その科学的根拠(エビデンス)を求めてこの記事にたどり着いたのではないでしょうか。

この記事では、そのような疑問に対し、現在公開されている研究報告や公的機関の情報を基に解説します。

先に結論のポイントをお伝えすると、葉酸とプロバイオティクスの併用は、葉酸の体内利用を助ける可能性があり、科学的にも「期待できる選択肢」とされています。ただし、その効果を決定づけるようなヒトでの大規模な臨床試験は、まだ発展途上であるというのも事実です。

この記事を読むことで、「わかっていること」と「まだわかっていないこと」を明確に区別し、溢れる情報に惑わされることなく、ご自身で納得してサプリメントを検討するための知識を得ることを目指します。

なぜ今「葉酸×プロバイオティクス」が注目されるのか?妊活・妊娠中の基礎知識

まず、葉酸とプロバイオティクス、それぞれがなぜ重要なのかを簡単におさらいし、両者の関係性への理解を深めましょう。この後の本題を理解する上で大切な土台となります。

改めておさらい:葉酸が胎児の成長に不可欠な理由

葉酸は、私たちの体を作る上で欠かせないビタミンB群の一種です。特に妊娠初期の摂取が重要視されるのは、赤ちゃんの脳や脊髄といった中枢神経系の発達に深く関わるためです。

  • 葉酸の主な役割
    • 細胞の分裂と成長のサポート: 新しい細胞が作られる際に必須の栄養素です。
    • DNAの合成: 遺伝情報の設計図であるDNAを作る材料となります。
    • 赤血球の形成: 血液を作る働きにも関わります。

妊娠初期にこの葉酸が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害という先天性異常の発症リスクが高まることがわかっています。そのため、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準」において、通常の食事に加え、妊娠を計画している女性や妊娠中の女性がサプリメントなどから1日400μgの葉酸を摂取することを推奨しています。

「左の緑丸B9アイコンから細胞分裂イラストを経て右の胎児イラストへ矢印で繋いだ、葉酸と成長の関係を示す図」

腸内環境(腸活)が全身の健康の土台となる仕組み

プロバイオティクスは、腸内の細菌バランス(腸内フローラ)を整え、私たちの体に良い影響をもたらす生きた微生物の総称です。一般的には「善玉菌」として知られています。

腸は単に食べ物を消化するだけの器官ではありません。栄養素の吸収はもちろん、免疫機能の約7割が集中する人体最大の免疫器官であり、一部のビタミンを合成する働きも担っています。近年の研究では、この腸内環境の状態が、母体だけでなくお腹の赤ちゃんの健康にも影響を及ぼす可能性が次々と示唆されており、「腸活」の重要性はますます高まっています。

【本題】葉酸とプロバイオティクスの関係性を示す科学的根拠(エビデンス)

ここからが本題です。「葉酸とプロバイオティクス」の関係性について、現在どこまで科学的に解明されているのかを、より深く掘り下げて解説します。

「腸内イラストと発酵食品が左、緑のB9六角形が右。矢印でプロバイオティクスから葉酸産生への経路を示したインフォグラフィック」

根拠①:一部のプロバイオティクスは「葉酸を産生する」能力を持つ

私たちの腸内にいる細菌が、ビタミンなどの有用な物質を自ら作り出していることは、研究により知られています。そして、一部のプロバイオティクス(特にビフィドバクテリウム属やラクトバチルス属)が、体内で葉酸を産生する能力を持つことが、複数の研究で報告されています。

これは、プロバイオティクスを摂取することが、腸内で葉酸が作られるプロセスをサポートする可能性を示唆しており、葉酸とプロバイオティクスの併用を考える上で非常に興味深い根拠の一つです。

根拠②:腸内環境は葉酸の「吸収」と「利用(活性化)」の両方をサポートする可能性

プロバイオティクスと葉酸の関係性は、単に産生するだけでなく、「吸収」と「利用」という2つの重要な側面からも期待されています。

まず「吸収」についてです。プロバイオティクスは腸内環境を整え、腸のバリア機能を健康に保つことが期待されます。健全なバリア機能は、葉酸を含む様々な栄養素を効率よく吸収するための土台となります。これは、摂取した栄養素を無駄にしないための間接的なサポートと言えるでしょう。

次に、より注目すべき「利用(活性化)」の側面です。一般的なサプリメントに含まれる合成葉酸は、そのままでは体内で働くことができません。体内の酵素(MTHFRなど)の働きによって、実際に機能する「活性型葉酸(5-MTHF)」へと変換(活性化)される必要があります。

しかし、この変換能力には遺伝的な個人差(MTHFR遺伝子多型など)があることが知られており、人によっては摂取した葉酸を効率よく活性型に変換できない場合があります。

ここで、プロバイオティクスのより直接的な役割がクローズアップされます。近年の研究では、一部の優れたプロバイオティクス菌株は、この変換プロセスを必要としない「活性型葉酸」そのものを腸内で直接産生する能力を持つことが報告されているのです。

これは、単に葉酸の利用を「手伝う」というレベルを超え、体にとって最も利用しやすい形の葉酸を「新たに供給する」という点で、非常に大きな意味を持ちます。特に、葉酸をうまく活性化できない体質の人にとっては、心強い味方となり得る可能性を秘めています。

【最重要】「葉酸×プロバイオティクス」の臨床試験はどこまで進んでいる?

では、実際にこの組み合わせの効果をヒトで検証した「臨床試験」はどこまで進んでいるのでしょうか。ここでは、「わかっていること」と「まだわかっていないこと」を客観的な視点で整理します。

【わかっていること】

  • 妊婦に対するプロバイオティクスの安全性: 妊婦さんが一般的なプロバイオティクス(ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属など)を摂取することの安全性については、多数の臨床研究で確認されており、リスクは低いと考えられています。
  • 基礎研究レベルでの効果: 動物実験やごく小規模なヒト試験レベルでは、葉酸を産生する特定の菌株を摂取することで、血中の葉酸濃度にポジティブな影響が見られたという報告が存在します。

【まだわかっていないこと・今後の課題】

  • 決定的な臨床試験結果の不在: 現時点では、「葉酸とプロバイオティクスを併用したグループが、葉酸だけを摂取したグループに比べて、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを有意に低下させた」というような、効果を決定づける大規模な臨床試験の結果はありません。

これは、この分野の研究がまだ新しく、これから更なる検証が必要な段階にあることを意味します。現在も関連研究は世界中で進められており、今後の研究成果に大きな期待が寄せられています。

【実践編】科学的根拠から考えるプロバイオティクス・サプリメントの選び方

ここまでの科学的根拠を踏まえ、もしあなたが「併用を前向きに検討したい」と考えた場合、どのように製品を選べばよいのでしょうか。理論から実践へ、具体的なアクションのための指針を示します。

葉酸との併用で注目すべきプロバイオティクスの「菌株」とは?

プロバイオティクスの世界では、「菌株(きんかぶ)」という概念が非常に重要です。これは、同じ「ビフィズス菌」や「乳酸菌」という種類の中でも、さらに細かい分類があることを意味し、その効果は菌株ごとに異なるとされています。

したがって、「葉酸との併用」を意識するならば、葉酸産生能力、特に「活性型葉酸」の産生が研究で報告されている菌株に注目するのが論理的なアプローチです。

表:葉酸産生が報告されている代表的なプロバイオティクスの種類

種(例)菌株名(例)関連情報
種(例)菌株名(例)関連情報
ビフィドバクテリウムロンガムBB536葉酸産生に関する基礎研究報告あり
ビフィドバクテリウムアドレッセンティス(特定の菌株)複数の研究で葉酸産生が報告されている
ラクトバチルスプランタルム(特定の菌株)葉酸産生菌として知られる代表的な菌種

注意:上記はあくまで研究報告の一例であり、特定の製品の効果を保証するものではありません。

信頼できる葉酸・プロバイオティクスサプリメントを選ぶための5つのチェックリスト

溢れる製品の中から、信頼できるものを自分で見極めるための客観的な基準をご紹介します。ぜひ、製品パッケージの裏側を確認する際の参考にしてください。

  1. 葉酸の含有量と種類は適切か?
    → 厚生労働省が推奨する、吸収率の高い「モノグルタミン酸型葉酸」が400μg以上配合されているかを確認しましょう。
    (補足)近年、体内で変換の必要がない「活性型葉酸(5-MTHF)」を直接配合した製品もあります。これは特に、葉酸の変換効率に影響する遺伝的背景(MTHFR遺伝子多型など)を持つ場合に有益な選択肢となる可能性があります。
  2. プロバイオティクスの「菌株名」まで明記されているか?
    → 単に「乳酸菌配合」ではなく、上記で解説したような「〇〇菌△△株」といった菌株名までしっかり記載されている製品は、品質に対する意識が高いと考えられます。
  3. 生菌数は保証されているか?
    → 製造時の菌数だけでなく、賞味期限まで効果が期待できる菌数が「〇〇億個」「CFU」といった単位で保証されているかを確認しましょう。
  4. 不要な添加物は含まれていないか?
    → 妊活・妊娠中は特に、着色料、甘味料、香料などの不要な添加物が極力少ない、シンプルな組成の製品が望ましいです。
  5. 信頼できる品質管理基準(GMP認定など)か?
    → GMP認定工場で製造されている製品は、原材料の受け入れから出荷まで、一定の品質が保たれていることの一つの目安になります。

これらのポイントを踏まえた上で、具体的な製品選びに迷った際は、こちらの専門家が選んだ葉酸サプリおすすめランキングも参考にしてみてください。

この記事は、あくまで科学的知見に基づいた情報提供と製品選びの指針を示すことを目的としています。特定の製品の効果を保証したり、購入を推奨したりするものではありません。最終的なご判断は、本記事の情報を参考に、かかりつけの医師ともよく相談の上で行ってください。

葉酸とプロバイオティクスに関するよくある質問

最後に、多くの方が抱くであろう細かい疑問について、一般的な情報として回答します。

Q1. 妊娠中にプロバイオティクスを摂取しても、赤ちゃんに影響はありませんか?

A. 多くの臨床研究で、妊婦さんが一般的なプロバイオティクス(ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属など)を摂取することの安全性は高いと示唆されています。 例えば、信頼性の高いコクランレビュー(複数の臨床試験を統合して評価した研究)でも、妊娠中のプロバイオティクス摂取が早産やその他の有害事象のリスクを増加させないことが報告されています。
ただし、これはあくまで一般論です。個人の健康状態や妊娠経過によって状況は異なりますので、自己判断で摂取を開始せず、必ずかかりつけの医師に相談することが推奨されます。

Q2. 食事から摂るのではダメなのでしょうか?

A. 食事から摂ることは非常に重要であり、腸活の基本です。 ヨーグルト、納豆、味噌、キムチといった発酵食品を日々の食事に取り入れることは、強く推奨されます。
一方で、サプリメントには「特定の機能性が報告されている菌株」を、「十分な量」で「効率的」に摂取できるという利点があります。食事を基本としながら、ご自身の目的やライフスタイルに合わせてサプリメントを賢く活用するのが理想的な形と言えるでしょう。

Q3. 「シンバイオティクス」という言葉も聞きますが、何が違うのですか?

A. 「シンバイオティクス」とは、プロバイオティクス(善玉菌そのもの)と、その働きをサポートする基質(エサとなるプレバイオティクスなど)を意図的に組み合わせたものです。 国際的な科学団体(ISAPP)は、この組み合わせによって相乗効果が生まれ、より効率的に健康上の利益をもたらすことが期待されるアプローチであると定義しています。サプリメントを選ぶ際の一つのキーワードとして覚えておくと良いでしょう。

まとめ:科学的根拠を理解し、自信を持って最適な選択を

今回は、葉酸とプロバイオティクスの関係性について、現在公開されている科学的知見を基に解説しました。最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。

  • 葉酸とプロバイオティクスの併用は、腸内での葉酸産生や、特に『活性型葉酸』の直接産生といった観点から、科学的にも期待されているアプローチです。
  • ただし、その効果を決定づける大規模な臨床試験はまだ発展途上であり、「わかっていること」と「今後の課題」を冷静に理解することが賢明な判断に繋がります。
  • サプリメントを選ぶ際は、広告やイメージに流されず、「葉酸の種類(活性型か)」「菌株名」「品質管理」といった客観的なチェックリストを用いて、ご自身で信頼できる製品を見極めることが重要です。

情報が溢れる現代において、最も大切なのは、ご自身が正しい知識を身につけ、納得して行動を選択することです。そして、最終的には必ずかかりつけの医師に相談してください。この記事の情報が、医師とのコミュニケーションをより深めるための「知識の土台」となり、あなたが自信を持って最適な選択をされる一助となれば幸いです。

参考文献・参照

本記事を作成するにあたり、以下の公的機関の情報を参照しました。

監修者
院長

たけつな  のぶひと

竹綱 庸仁

経歴

平成16年愛知医科大学医学部卒業

愛知医科大学院病院 卒後臨床研修医

平成18年愛知医科大学病院 小児科入局

平成23年愛知医科大学小児科 助教

平成29年たけつな小児科クリニック開院

所属
学会

日本小児科学会(専門医/指導医)

日本外来小児科学会

日本小児科医会(地域総合小児医療認定医)

日本小児神経学会

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