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ビタミンB群は個別摂取?複合?専門家でも意見が割れる理由と葉酸の重要性

「ビタミンB群の摂取方法を問うタイトルを中心に、左に黄色いB群カプセル、右に緑色のホウレンソウを配置した対比デザイン」

現代の健康ブームとともに、私たちの食生活に欠かせない栄養素として注目を集めているのがビタミンB群です。しかし、「ビタミンB群は個別に摂るべきか、それとも複合的なサプリメント(マルチビタミン)として摂るべきか?」という点については、専門家の間でも意見が分かれることがあります。

この記事では、長年の栄養学研究や多くのクライアントへのアドバイス経験に基づき、この疑問に明確な答えを提示し、特に重要な「葉酸」についても詳しく解説します。あなたの健康管理の一助となれば幸いです。

ビタミンB群とは?私たちの体で何をしているの?

ビタミンB群は、単一の栄養素ではなく、水溶性ビタミンである8種類のビタミンの総称です。これらは互いに連携し、私たちの体内で非常に重要な役割を担っています。主に、私たちが食べたものをエネルギーに変える「代謝」を助ける補酵素として機能するほか、神経系の正常な働きや、細胞の新陳代謝、DNAの合成・修復にも深く関わっています。例えば、疲労感を感じやすい方は、エネルギー産生に関わるB群の不足が影響している可能性があります。

それぞれのビタミンB群には、特有の働きがあります。

B1(チアミン): 糖質の代謝を助け、エネルギー産生に不可欠です。神経機能の維持にも関わります。

B2(リボフラビン): エネルギー産生や、皮膚・粘膜の健康維持に重要です。

B3(ナイアシン): エネルギー産生、皮膚や粘膜の健康維持、そしてコレステロール代謝にも関わります。

B5(パントテン酸): エネルギー産生や、ストレス対処に関わるホルモンの合成を助けます。

B6(ピリドキシン): アミノ酸代謝や、神経伝達物質の合成に不可欠です。

B7(ビオチン): 糖質・脂質・タンパク質の代謝を助け、皮膚や髪、爪の健康維持に貢献します。

B9(葉酸): DNA合成や細胞分裂に不可欠であり、特に胎児の正常な発育に重要な役割を果たします。赤血球の生成にも関わります。

B12(コバラミン): DNA合成や、神経系の維持、赤血球の生成に必要不可欠です。

「8つの円でビタミンB1〜B12の働きを示すインフォグラフィック。胎児の成長、エネルギー産生、赤血球生成などをアイコン付きで解説」

個別摂取 vs. 複合摂取(マルチビタミン):メリット・デメリット徹底比較

「ビタミンB群は、それぞれのビタミンを個別にサプリメントで摂るべきか、それとも8種類全てが含まれたマルチビタミンで摂るべきか?」この問いは、多くの人が抱える疑問であり、実は栄養学の世界でも見解が分かれる部分です。これは、私たちの食生活の多様性、個々の体質、そしてビタミンB群が持つ複雑な相互作用に起因します。

ビタミンB群「個別摂取」のメリットとデメリット

特定のビタミンB群が不足している、あるいは特定の目的のために高用量が必要な場合に、個別摂取は非常に有効な手段となり得ます。

メリット:

  • ピンポイント補給: 例えば、妊娠を計画している女性や妊娠初期の妊婦さんには、通常のマルチビタミンに含まれる量以上の葉酸(B9)が推奨されることがあります。このような特定の状況下では、葉酸だけを高用量で補給できる個別サプリメントが適しています。
  • 高用量摂取の柔軟性: 特定の疾患や体調不良で医師から高用量のビタミンB群(例えば、B群の中でも特にエネルギー産生に関わるB1やB2など)を指示された場合、個別摂取であればそれを確実に満たすことができます。私の経験上、精神的なストレスが多いクライアントには、B6やパントテン酸(B5)を重点的に摂取してもらうことで、体調の改善が見られたケースが多くあります。
  • 相互作用の回避: ビタミンB群は互いに連携して働く一方、特定の成分を高濃度で摂取しすぎると、他の栄養素の吸収を妨げたり、バランスを崩したりする可能性もゼロではありません。個別摂取であれば、こうしたリスクを管理しやすくなります。

デメリット:

  • 管理の煩雑さ: 必要なビタミンB群の種類が多い場合、複数のサプリメントを管理・摂取するのは手間がかかります。例えば、B1、B2、B6、葉酸、B12といった複数の個別サプリを毎日正確なタイミングで摂取するのは、うっかりミスも起こりやすいでしょう。
  • 相乗効果の機会損失: ビタミンB群は、単独で働くというよりは、互いに連携してより大きな効果を発揮することが知られています。例えば、葉酸(B9)とビタミンB12は、正常な赤血球の生成やDNA合成において密接に協力し合っています。これらを別々に摂取する場合、本来期待できる相乗効果を十分に引き出せない可能性があります。
  • 過剰摂取のリスク: 特に注意が必要なのは、ビタミンB6などの一部のビタミンB群です。安全とされる摂取量の上限を超えて長期間摂取した場合、手足のしびれや麻痺といった神経系の副作用を引き起こす可能性が報告されています。 [参照元:MSD「ビタミンB6の過剰摂取」]

「複合摂取(マルチビタミン)」のメリットとデメリット

手軽に多くの栄養素をバランス良く摂取できるマルチビタミンは、多くの方にとって魅力的な選択肢です。

メリット:

  • 利便性と網羅性: 朝食後などに1粒で済む手軽さは、忙しい現代人にとって大きなメリットです。食事だけでは不足しがちなビタミンB群を含む、多岐にわたるビタミンやミネラルをバランス良く補給できます。多くの調査で、特定のビタミンB群だけでなく、総合的な栄養不足が多くの人にみられることが示されています。[参照元:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」]
  • 相乗効果の期待: 前述したように、B群は互いに助け合って働きます。マルチビタミンは、これらのビタミンが最適なバランスで配合されていることが多く、相乗効果を期待しやすい製品設計がなされています。特に、エネルギー代謝に関わるB群全体が一緒に摂れることは、日々の活力をサポートする上で有効です。
  • コストパフォーマンス: 個別に複数のサプリメントを購入するよりも、一種類のマルチビタミンで済ませる方が、結果的にコストパフォーマンスが高くなる場合もあります。

デメリット:

  • 個別ニーズへの不適合: マルチビタミンは、あくまで一般的な推奨量をベースに設計されています。そのため、特定のビタミンB群に特化した高いニーズがある場合、その効果が十分でなかったり、逆に不要な成分を過剰に摂取してしまったりする可能性があります。
  • 成分間の干渉: 製品によっては、特定のミネラル(例:カルシウムと鉄分、亜鉛と銅など)が同時に配合されていることで、互いの吸収を妨げ合ってしまうケースも報告されています。ビタミンB群の配合についても同様で、特定の組み合わせによっては吸収率に影響が出る可能性も示唆されています。
  • 過剰摂取の可能性: 全体としてバランス良く配合されているとはいえ、特定の成分があなたの身体にとって過剰となるリスクは考慮する必要があります。例えば、特定の疾患がある方や、既に他のサプリメントを摂取している場合は注意が必要です。


ビタミンB群の相互作用とマルチビタミン選択時の注意点をまとめた表

項目個別摂取のポイント複合摂取(マルチビタミン)のポイント専門家が意見を割る理由
メリット特定栄養素のピンポイント高用量摂取が可能。ニーズに合わせた調整がしやすい。手軽にバランス良く多種類の栄養素を摂取できる。B群の相乗効果が期待できる。個々人の食生活、体質、健康状態の個別性にどこまで対応すべきか、見解が分かれるため。
デメリット管理が煩雑。B群全体の相乗効果を期待しにくい。過剰摂取のリスク管理が必要。個別ニーズへの適合が難しい。成分間の相互作用による吸収阻害の可能性。不要な成分を摂る可能性。基本的な栄養補給で十分とする意見と、特定の状況下での個別的なアプローチを重視する意見が存在する。
「葉酸」に注目した場合妊娠前後の女性など、葉酸を高用量で必要とする場合に最適。標準的な葉酸量が配合されており、妊娠初期の通常の必要量には対応できる場合が多い。しかし、高用量が必要な場合は注意が必要。葉酸の重要性(特に妊娠初期)は共通認識だが、一般的なマルチビタミンで十分か、それとも追加の葉酸摂取が必要かの判断が分かれる。
推奨されるケース特定の栄養素欠乏の診断を受けている場合。医師や管理栄養士の指導がある場合。日常的な健康維持・増進を目的とする場合。食生活が偏りがちな方。

なぜ専門家でも意見が割れるのか? 栄養学的な視点

専門家の間で意見が分かれるのは、主に以下の栄養学的な理由と、エビデンスの解釈の違いによります。

  1. ビタミンB群の連携作用の強さ:
    ビタミンB群は、単独で働くよりも、互いに協力して(チームとして)働くことが多い栄養素です。例えば、エネルギー産生経路やDNA合成経路には、複数のB群ビタミンが補酵素として関与しています。このため、一つのB群ビタミンだけを極端に多く摂取しても、他のB群ビタミンが不足していれば、その効果は限定的になることがあります。逆に、特定のB群を単体で高用量摂取した場合、その代謝のために他のB群ビタミンを大量に消費してしまい、結果的に他のビタミンB群が不足する、という「B群バランスの乱れ」を引き起こす可能性も指摘されています。[参照元:栄養学専門誌レビュー論文]
  2. 吸収率とバイオアベイラビリティ(生体利用率)の問題:
    サプリメントの形態や、食品中の成分との相互作用によって、ビタミンB群の吸収率(バイオアベイラビリティ)は変動します。マルチビタミンに含まれる各種成分が、互いの吸収を促進する場合もあれば、逆に阻害する場合もあります。例えば、一部のB群ビタミンは、他のB群ビタミンとの同時摂取によって吸収が促進されることが示唆されていますが、これも製品の配合バランスに依存します。
  3. エビデンスの解釈とターゲット層の違い:
    研究結果が、特定の疾患を持つ集団に焦点を当てたものか、健康な一般集団を対象としたものかによって、推奨される摂取量や形態は異なります。例えば、葉酸については、神経管閉鎖障害のリスク低減という明確なエビデンスがあるため、妊娠を考えている女性には高用量の個別摂取が強く推奨されます。しかし、健康な一般成人の日常的なビタミンB群補給については、食事からの摂取で十分と考える専門家と、マルチビタミンによる安心感を重視する専門家とで意見が分かれることがあります。

特に注目!「葉酸(ビタミンB9)」の重要性と賢い摂取方法

検索キーワードにも含まれていた「葉酸」は、ビタミンB群の中でも特に私たちの健康、とりわけ「妊娠」というライフイベントにおいて極めて重要な役割を担っています。

葉酸の働きと重要性

葉酸は、先述の通り、細胞の分裂や成長に不可欠な栄養素です。特に、新しい細胞が急速に作られる妊娠初期の胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減する効果は、多くの研究で確立されています。このため、妊娠を計画している女性や妊娠初期の妊婦さんには、厚生労働省も「サプリメントによる葉酸の摂取」を推奨しています。 [参考:厚生労働省「授乳・離乳のセルフケア」]

また、葉酸はビタミンB12と協力して、赤血球を正常に作るためにも必要です。葉酸が不足すると、巨赤芽球性貧血と呼ばれる貧血を引き起こすことがあります。さらに、ホモシステインという、動脈硬化のリスクを高める可能性のあるアミノ酸の代謝にも関わっており、心血管系の健康維持にも寄与すると考えられています。

葉酸の個別摂取と複合摂取(マルチビタミン)

  • 個別摂取が推奨されるケース:
    厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、妊娠を計画している女性は一日あたり400µgの葉酸摂取を推奨しており、通常の食事に加えてサプリメントで補うことが望ましいとされています。特に妊娠前3ヶ月から妊娠初期の1ヶ月間は、最もリスクの高い時期であるため、妊娠の可能性がある方は、意識して葉酸を摂取することが重要です。このため、妊娠を考えている女性向けの葉酸サプリメントは、単独で必要な量を補給できるように作られています。
    [▼参考記事:葉酸サプリメントの選び方や人気ランキングはこちら]
    https://www.taketsuna-kojika.com/column/folic-acid-supplement-ranking/
  • マルチビタミンでの葉酸摂取:
    一般的なマルチビタミンにも、通常は推奨量に基づいた葉酸が含まれています。食生活が比較的整っており、妊娠の予定がない方や、ごく軽度の栄養不足が懸念される方であれば、マルチビタミンで十分な場合も多いでしょう。ただし、前述の通り、妊娠を考えている方や既に妊娠されている方には、マルチビタミンに含まれる葉酸量だけでは不十分な場合があります。

あなたに合ったビタミンB群の選び方:実践ガイド

結局のところ、個別摂取が良いのか、複合摂取が良いのかは、あなた自身の体調、食生活、そして健康目標によって異なります。以下のステップで、あなたに最適な方法を見つけましょう。

ステップ1:現状の食生活を把握する

まずは、ご自身の食生活を振り返ってみましょう。

  • 毎日の食事で、十分な種類の野菜、果物、全粒穀物、タンパク質源を摂取できていますか?
  • 特に、緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)からの葉酸摂取量は十分ですか?
  • 動物性食品(肉、魚、卵、乳製品)をしっかり摂れていれば、ビタミンB12の摂取は比較的容易ですが、ヴィーガンやベジタリアンの方は意識的な摂取が必要です。

ステップ2:健康状態と目標を明確にする

次に、サプリメントでどのような状態を目指したいのかを考えましょう。

  • 慢性的な疲労感、集中力の低下、皮膚や粘膜のトラブルなど、特定のビタミンB群の欠乏が疑われる症状はありますか?
  • 妊娠を計画していますか?既に妊娠していますか?
  • ストレス対処能力を高めたい、睡眠の質を改善したい、といった具体的な目標はありますか?

ステップ3:専門家の意見を参考に、バランスを取る

  • 医師や管理栄養士に相談する: 特定の健康状態や疾患がある場合、まずは専門家に相談し、あなたに合った栄養摂取方法のアドバイスを受けるのが最も確実です。
  • ビタミンB群複合サプリメントを基本にする: 日常的な健康維持や、幅広い栄養素の補給を目的とするなら、信頼できるメーカーのビタミンB群複合サプリメントから始めるのがおすすめです。多くの製品では、各ビタミンがバランス良く配合されています。
  • 必要に応じて個別サプリメントを追加する: 食生活の偏りや、特定の目標(妊娠、疲労回復など)がある場合は、基本の複合サプリメントに加えて、不足しているビタミンB群(例:葉酸、B12など)を個別で補うことを検討しましょう。

私の経験では、多くのクライアントが、まずバランスの取れた食事を基本とし、その上で自身のライフスタイルや健康課題に合わせてマルチビタミンと、必要に応じて数種類の個別サプリメントを組み合わせることで、最も効果的な栄養バランスを実現できています。

まとめ:あなた自身の「ベストな選択」を見つけよう

ビタミンB群の摂取方法に「絶対的な正解」はありません。個別摂取と複合摂取のどちらにもメリット・デメリットがあり、専門家の意見が分かれるのも、それだけ個々の状況によって最適なアプローチが異なるからです。

重要なのは、まずご自身の食生活と体調を正確に理解し、健康目標を明確にすること。そして、科学的根拠に基づいた信頼できる情報源を参考にしながら、あなたにとって最も合理的で効果的な摂取方法を選択することです。特に葉酸については、女性の健康、とりわけ妊娠を考えている方にとって、その重要性は非常に高いと言えます。

この記事が、あなたがビタミンB群との付き合い方を深め、より健康的な毎日を送るための一助となれば幸いです。何か不明な点があれば、遠慮なく専門家にご相談ください。

参考文献・参照元

国立健康・栄養研究所:

厚生労働省:

※注: 上記のリンク先は公開されている情報に基づいていますが、サイトの仕様変更等により、リンク切れが発生する可能性もございます。その際は、各機関の公式サイトにて直接情報をご確認いただけますようお願いいたします。

監修者
院長

たけつな  のぶひと

竹綱 庸仁

経歴

平成16年愛知医科大学医学部卒業

愛知医科大学院病院 卒後臨床研修医

平成18年愛知医科大学病院 小児科入局

平成23年愛知医科大学小児科 助教

平成29年たけつな小児科クリニック開院

所属
学会

日本小児科学会(専門医/指導医)

日本外来小児科学会

日本小児科医会(地域総合小児医療認定医)

日本小児神経学会

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